いいえ。正解は、熊野地方に古くから伝わる「なれ寿司」です

「なれ寿司」は、滋賀県で食べられている鮒寿司などと並ぶ、日本三大腐り寿司のひとつで、昔から海のない地域で保存食&貴重なタンパク源とされていた発酵食品です。
和歌山県北部では鯖を使って作るようですが、南部の熊野地方で使われるのはサンマ。
厳寒期、寒流に乗って南下するうちに脂が落ちた紀州沖のサンマを使用するのが、美味しいなれ寿司を作るコツだそうですが、非常に手間隙がかかるのと独特の風味で、家庭で作られることは少なくなり、なかなか食べる機会もない貴重なものに・・・
今年は、毎年ご自宅で作られている方に2年越しでお願いして、少し分けていただくことができました。
食べる前に、どのように作るのか教えていただきましたよ。
季節は12月中旬〜2月。余分な脂が落ちた紀州沖のサンマを、まず腹割りではなく、背割りにします。
これは熊野地方の風習で、なれ寿司だけでなく通常のサンマ寿司も、なぜか必ず背割りにします。腹割りは切腹を連想させるため?かしら。
城下町があり、武士文化がより濃厚だったはずの田辺市街地では、今や腹割りが主流なのに・・・たまたま熊野では背割りにする風習が残っているんですかね?
常々不思議に思っていることです。どなたかご存知の方がいらっしゃったらぜひ教えてください

おっと・・・話がそれましたが、作り方の続きです

背割りにしたサンマは、たっぷりの塩で塩漬けに。
ご飯は、普通に炊く時の倍量の水と、風味付けの日本酒やだし昆布を入れて、柔らかめに炊きます。
炊き上がったご飯を棒状にして、塩抜きしたサンマをのせ、ウラジロシダを間に敷きながら、隙間ができないように桶に詰めていきます。
一番上にまたウラジロシダをのせ、落し蓋をして重石を乗せたら、下準備は完成

さて、ここからが圧巻です

寿司を詰め込んだ桶に、海水程度の塩分濃度の水をたっぷり張ります。
それを4〜5日放置すると、水面上に白いカビが生えてくるそう。さらに10日ほど置くとカビがどんどん増殖してくるので、カビの状態でなれ具合を見るそうです。うほ~

ここで「うーん、無理

でも、カビが生えているのは水面上だけで、水面下ではちゃんと、腐敗ではなく自然発酵が進んでいるから大丈夫。とは作った方の談

なれ具合がちょうど良くなったら、なれ寿司にカビがつかないように注意しながら水を捨て、逆押し(さかおし)して水気を切ります。
その状態で一昼夜置くと、美味しいなれ寿司の出来上がり

ここまで聞くと、一体どんな匂い&味なのか

実は私も、なれ寿司に挑戦するのは初めて。恐る恐る匂いを嗅ぐと、おおぉ。むわっと独特の発酵臭が・・・

苦手な方は、この匂いだけで「うっ

通常のサンマ寿司よりも薄く切り分け、七味醤油を付けて、思い切ってぱくっ。と一口いってみました。
ねっとりとしたお米の甘みと、鼻へ抜ける爽やかな酸味、塩のきいたサンマのマッチングが絶妙

酢を入れなくても、自然発酵でこのような酸味が出るんですね!匂いは独特ですが、それさえ気にならなければ非常に美味です〜〜!お酒が好きな人にはたまらないですよ〜。
残りは、熱燗と一緒にちびちびいただこうと思います

想像よりもずっと美味いしかったなれ寿司。好物のひとつになりました。
でも、なれ寿司を触った指にも(たぶん口にも)発酵臭が染み付きますので、切り分けるとき&食べるときはご注意を

今回いただいたような、漬け時間が短いものは「半なれ」と呼び、まだ食べやすい方だとか。
「本なれ」と呼ばれるものにいたっては、数ヶ月から数年間漬けこむそうで、新宮市にはなんと、30年もののなれ寿司を食べさせるところもあるんですって。
そこまで行くと、お米がドロドロのヨーグルト状になって形状を留めないそう。さすがに口にするのはかなり勇気が要りますね!
でも、発酵させることで乳酸菌が豊富に含まれることから、なれさせるほど胃腸にはとても良いそうですよ。昔の人の知恵ってすごいですね。
また、なれ寿司は別名「やり寿司」とも呼ばれるそうです。
それぞれの家庭で作る、異なる味わいのなれ寿司をお裾分けし合う(やる)ために、そう呼ばれるようになったんですって。
私も、ずっとなれ寿司を食べたがっていた本宮町出身のうちのばあちゃんに、「やり寿司」してみました

「昔は、お正月によう食べたもんやなぁ。ほんまに懐かしいわ〜」と、目を細めて喜んでくれました。
廃れつつある、昔ながらの素晴らしい食文化。ぜひ継承していきたいものですね。
いつか、自分でも作ってみようかな?!
人によって好き嫌いがはっきり分かれる食べ物ですが、熊野を訪れた際になれ寿司を見かけたら、話のネタにぜひ一度、食べてみてくださいね

(しゃぶ)
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